<梅>
出現する巻と本文(新日本古典文学大系 源氏物語;岩波書店)
「末摘花」  p234-14
日のいとうららかなるに、いつしかと霞みはたれる梢どもの心もとなき中にも、はけしきばみほほ笑みわたれる、とりわきて見ゆ。

「末摘花」  p235-02
  「くれなゐの花ぞあやなくうとまるるの立枝はなつかしけれど
いでや」と、あいなくうちうめかれ給ふ。

「玉鬘」  p369-04

のおり枝、てう、鳥飛び違ひ、唐めいたる白き小袿に、濃きがつやゝかなるを重ねて、明石の御方に、思やりけ高きを、上はめざましと見給。

「初音」  p378-06
春のおとどの御前、とり分て、の香も御簾のうちの匂ひに吹まがひ、生ける仏の御国とおぼゆ。

「初音」  p385-04
花の香誘ふ夕風のどやかにうち吹きたるに、御前のやうやうひもときて、あれはたれ時なるに、物の調べどもおもしろく、此殿うち出たる拍子いと花やかなり。

「梅枝」  p153-13
むかしよりとりわきたる御仲なれば、隔てなくそのことかのことと聞こえあはせ給て、花をめでつゝおはするほどに、前斎院よりとて、散りすきたるの枝につけたる御文持てまひれり。

「梅枝」  p154-04
沈の箱に、瑠璃の坏二つ据ゑて、大きにまろがしつゝ入れ給へり。心葉、紺瑠璃には五えうの枝、白きにはをえりて、おなじく引むすびたる糸のさまも、なよびやかになまめかしうぞし給へる。

「若菜 上」  p245-09
ことにはづかしげもなき御さまなれど、御筆などひきつくろひて、白き紙に、
   中道をへだつるほどはなけれども心みだるゝけさのあわ雪
につけ給へり。人召して、「西の渡殿よりたてまつらせよ」との給。

「若菜 下」  p333-15
正月廿日許になれば、空もおかしきほどに、風ぬるく吹きて、御前のも盛りになりゆき、大方の花の木どももみなけしきばみ、霞みわたりにけり。

「若菜 下」  p403-08
雪のたゞいさゝか散るに、春の隣近く、のけしき見るかひありてほゝ笑みたり。

「幻」  p206-06
春までの命も知らず雪のうちに色づくをけふかざしてん

「匂宮」  p219-05
御前の花の木も、はかなく袖ふれ給ふの香は、春雨の雫にも濡れ、身にしむる人多く、秋の野に主なき藤袴も、もとのかほりは隠れて、なつかしきをひ風ことに、おりなしからなむまさりける。

「匂宮」  p224-09
御土器などはじまりて、物おもしろく成行に、求子舞ひてかよる袖どものうち返す羽風に、御前近きの、いといたくほころびこぼれたる匂ひのさとうち散りわたれるに、例の、中将の御かほりのいとゞしくもてはやされて、いひ知らずなまめかし。

「紅梅」  p239-05
心ありて風のにほはす園のにまづ鶯のとはずやあるべきと、くれなひの紙に若やぎ書きて、この君の懐紙にとりまぜ、押したたみて出だし立てたまふを、おさなき心に、いと馴れきこえまほしと思へば、急ぎまいりたまひぬ。

「紅梅」  p240-06
枝のさま、花房、色も香も世の常ならず。「園に匂へる紅の、色にとられて香なん白きは劣れると、言ふめるを、いとかしこくとり並べて咲きけるかな」とて、御心とどめ給ふ花なれば、かひありてもてはやし給。

「紅梅」  p243-14
おなじ花の名なれど、は生ひ出でけむ根こそ哀なれ。

「竹河」  p259-03
御前近き若木の、心もとなくつぼみて、鶯の初声もいとおほどかなるに、いとすかせたてまほしきさまのしたまへれば、人人はかなき事を言ふに、言少なに心にくきほどなるをねたがりて、宰相の君と聞こゆる上らうのよみかけたまふ。

「竹河」  p259-07
  おりてみばいとぐ匂もまさるやとすこし色めけの初花
口はやしと聞きて、
  「よそにてはもぎ木なりとやさだむらんしたに匂へるの初花
さらば袖ふれてみ給へ」など言ひすさぶに、「まことは色よりも」と、口口、引きも動かしつべくさまよふ。


「竹河」  p260-06
侍従の君、まめ人の名をうれたしと思ひければ、廿余日のころ、の花盛りなるに、にほひ少なげにとりなされし、すき物ならはむかし、とおぼして、藤侍従の御もとにおはしたり。

「早蕨」  p013-02
  袖ふれしはかはらぬ匂ひにて根ごめうつろふ宿やことなる
たえぬ涙をさまよくのごひ隠して、言多くもあらず。

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