巻の順番 巻名 ふりがな(例) あらすじ
1 桐壺 きりつぼ 光君(=光源氏)誕生!母・桐壺更衣は弘徽殿女御(=弘徽殿大后)ら右大臣方の圧力に耐えきれず亡くなります。父桐壺帝は亡き更衣の里邸に勅使を派遣。桐壷帝は新たに藤壺女御(=藤壺中宮)を迎え、光君は亡き母に似ると聞いて藤壺にひそかに思いを寄せます。十二歳で光君は臣籍に下され元服、葵上と政略結婚、源氏となりますが、その将来については不思議な予言も? 
2 帚木 ははきぎ 五月雨の夜、頭中将たちから女性論を聞き、光源氏は中流の女性に興味を抱きます。正妻の葵上はそっけない態度。方違(かたたがえ)の夜に人妻・空蝉を見そめ、源氏は強引に契りを結んでしまいます…。
3 空蝉 うつせみ 自分の身分をわきまえ拒絶する空蝉を、光源氏は忘れられず、小君(空蝉の弟)を手なずけて逢おうとします。空蝉は衣一枚残して危うく逃れ、源氏は思いがけず軒端荻と一夜を過ごすことに…。
4 夕顔 ゆうがお 六条御息所に通う頃、惟光の母の見舞いで訪れた五条で、光源氏夕顔と出会い、互いに身分を隠したまま、情熱的な恋に落ちます。廃院で物の怪におそわれて、夕顔はまさかの急死。源氏は悲しみのあまり病気になってしまいます。
5 若紫 わかむらさき 光源氏は病の祈祷のために訪れた北山で、少女若紫(=紫上)を垣間見て心を動かされます。若紫は藤壺女御(=藤壺中宮)の姪なのでした。一方、運命の人・藤壺と源氏は密通…。藤壺は懐妊し、二人は罪の深さにおののきます。祖母尼君の死後、源氏は若紫を密かに引き取って育てます。
6 末摘花 すえつむはな 落ちぶれた宮家の姫君の噂にときめいた光源氏頭中将と恋を争って、ついに手に入れた姫君・末摘花は、実はとんでもない…。源氏は軽はずみを反省しますが、末摘花を見捨てることはしないのでした。
7 紅葉賀 もみじのが 紅葉の頃、宴が行われ、光源氏頭中将は青海波を舞います。頭中将は源氏に対抗心を燃やし、好色な老女・源典侍めぐっておかしな恋の騒動も。一方、藤壺女御(=藤壺中宮)は源氏そっくりの皇子(=後の冷泉帝)を生み、二人は罪におののきますが、桐壺帝の喜びはたいそう大きいのでした。藤壺は中宮に。弘徽殿女御(=弘徽殿大后)は復讐心を燃やします…。
8 花宴 はなのえん 桜咲くおぼろ月夜、[朧月夜の君]と偶然に出会い、恋に落ちます。彼女は敵方・[右大臣]家の姫君で、源氏を憎む弘徽殿女御(=弘徽殿大后)の妹なのでした。
9 あおい 桐壺帝が退位し、[朱雀帝]が即位、[藤壺中宮]の産んだ皇子(=後の冷泉帝)が春宮に。正妻葵上と愛人六条御息所の間の緊張が、葵祭で車争いに発展。悩む御息所の魂が生霊となって葵上を襲い、葵上は若君(=後の夕霧)を産んで急死。光源氏は悲しみの喪に服します。喪が明けて、美しく成長した紫上と、結婚。
10 賢木 さかき 傷ついた六条御息所は娘の斎宮(=後の秋好中宮)とともに伊勢に下り、光源氏と野宮で悲しい別れが。桐壺院(=桐壺帝)が崩御し、政治は弘徽殿大后[右大臣]に握られ、源氏は危うい立場に。心乱れる源氏は[藤壺中宮]に再び接近。藤壺は源氏の恋心を封じ東宮(=後の冷泉帝)を守るため、出家します。その渦中、源氏と朧月夜の君との密通が、右大臣方の怒りをかってしまいます…。
11 花散里 はなちるさと 梅雨の晴間の頃、政治的危機に立たされる中、光源氏は昔なじみの麗景殿女御とその妹・花散里を密かに訪れ、昔をしのびます。花散里は、源氏がほんの時折通う愛人なのでした。
12 須磨 すま 弘徽殿大后右大臣の怒りを避け、都を離れ須磨に退き、わび住まいをする光源氏。都では右大臣勢力が横行し、柔弱な朱雀帝はその言いなりに。人々は恐れて便りもしなくなり、源氏は孤独を深めてゆきますが、紫上は悲しみながらも立派に留守を守り、宰相中将(=元の頭中将)は危険を冒して須磨を訪れます。一年後、海辺で禊をする源氏に、突然、高波と暴風雨がおそいかかって…。
13 明石 あかし 落雷騒ぎの夜、亡き父院(=桐壺帝)が夢枕に立ち、その導きで光源氏は明石の地に移ります。[明石入道]は源氏をあつくもてなし、源氏は娘・[明石の君]と結ばれます。都では怪しい出来事が続き、朱雀帝も父桐壺院の夢を見て後、眼を病って怖れおののきます。翌秋、召還の宣旨が下り、源氏は喜びの帰京。身ごもった明石の君と両親は悲喜こもごもです。
14 澪標 みおつくし 藤壺中宮との秘密の子・冷泉帝が即位し、都に帰り咲いた光源氏を中心に政界は再編成、元の左大臣は太政大臣、源氏は内大臣に。藤壺は女院として冷泉帝を支えます。明石の君は姫君(=後の明石中宮)を生み、源氏は将来の妃候補として万全の養育体制を考え始めます。華やかに住吉神社への御礼参りが行われ、偶然来合せた明石の君は悲しみと不安を新たにします。
15 蓬生 よもぎう 古風な宮家の姫君・末摘花光源氏の訪れをずっと待ち続け、須磨下向の頃には舘は荒れ放題、生活にも困り果てるありさま。叔母の策略で乳母子の召使・侍従までも奪われ、帰京した源氏にも忘れられ、それでも心を曲げません。ある日通りかかりに偶然思い出した源氏は後悔し、末摘花の変らない志を大切に思って、後に二条東院に引き取ります。
16 関屋 せきや 石山詣での帰り、逢坂山の関で光源氏空蝉に再会します。空蝉は夫に従って常陸から上京した折でした。空蝉と小君(空蝉の弟)は、それぞれ複雑な心境。その後、夫に先立たれた空蝉は継子に言い寄られて不幸な出家をし、源氏の保護を受けることになります。
17 絵合 えあわせ 亡き六条御息所の娘・前斎宮(=後の秋好中宮)は、梅壺女御として入内し、光源氏が養父として後見することに。権中納言(=元の頭中将)の娘・弘徽殿女御と、華やかに冷泉帝の寵愛を競います。これはもちろん父同士・家同士の競争。源氏と藤壺中宮は協力して宮中の絵合を盛り上げ、源氏の描いた須磨の絵日記が決め手となって源氏方が勝利します。
18 松風 まつかぜ 姫君の将来のため光源氏は上京を勧め、明石の君は姫君(=後の明石中宮)・祖母の明石の尼君を伴って上京しますが、二条院には入らず郊外の大堰山荘に住まいを定めます。父明石入道は一人明石に残ることに。源氏は口実を設けて大堰に通いますが、紫上はおもしろくありません。源氏は姫君を紫上に養育させるよう、二条院に引き取る準備を始めます。
19 薄雲 うすぐも 明石の君は悩んだ末、姫君(=後の明石中宮)を手放す決心をし、悲しい別れの時がやってきます。一方、子供好きの紫上は可愛い姫君を喜んで迎え、光源氏と二人で大切に養育します。翌春、藤壺中宮が亡くなり、源氏は人知れず涙を流します。冷泉帝は源氏が実の父であることを密かに知って驚き、それとなく源氏に譲位することまでほのめかしますが、源氏はこれをいさめ、秘密が漏れたことに深く動揺します。
20 朝顔 あさがお 斎院を退いた朝顔の姫君に、光源氏は長年の恋心を訴えますが、慎み深い姫君は聞き入れません。高貴な正妻候補の噂に紫上は苦しみ嫉妬しますが、源氏は過去の恋愛談を打ち明けて慰めようとします。その夜、夢に亡き藤壺中宮が現れ、その救われぬ苦しみに衝撃を受けた源氏は、手厚く祈願します。
21 少女 おとめ 夕霧が元服し、光源氏は息子を甘やかさない堅実な教育方針をとります。同じ邸で育った雲居雁との初恋も、その父内大臣(=元の頭中将)に引き裂かれ、夕霧は悔しさをバネに勉学に打ち込みます。梅壷女御(=秋好中宮)は中宮に、源氏は太政大臣に昇進。源氏は四季の町で構成される大邸宅・六条院を造営し、紫上花散里明石の君たちと移り住みます。
22 玉鬘 たまかずら 夕顔の娘・玉鬘の行方を、光源氏は心配していましたが、夕顔亡き後乳母一家に連れられて筑紫に下っていたのでした。美しく成長した姫を豪族・大夫監の手から救うため、一家は危うく上京。父親探しのため初瀬詣に出かけた折、右近(夕顔の女房)にめぐり合い、六条院に迎えられます。玉鬘は源氏の娘(実は養女)として六条院の新たなヒロインとなります。
23 初音 はつね 新春の行事が華やかに続く六条院。紫上・明石姫君(=後の明石中宮)とともに春の町に住む光源氏は、冬の町に住む明石の君、夏の町の花散里玉鬘、二条東院の末摘花空蝉ら、女性達の住まいを訪ねてまわります。
24 胡蝶 こちょう 三月、紫上の御殿では、盛大に舟楽の宴が催されます。紫上と秋好中宮は、春と秋どちらが優れているかを競って楽しむのでした。柏木蛍宮など、玉鬘にあこがれる貴公子が多い中、光源氏は養父であるにもかかわらず美しい玉鬘にひかれる心を抑えきれず、雨上がりの夕べ、ついに恋心を伝えてしまいます…。
25 ほたる 悩みながらも、玉鬘の養父という立場を危うく守る光源氏ですが、一方で、源氏は玉鬘を六条院のヒロインとして華やかに演出、蛍宮の前で蛍を放って玉鬘の姿を見せ恋心をあおったりもします。長雨の頃、物語に夢中の紫上や玉鬘に、源氏は物語論を語ります。
26 常夏 とこなつ 真夏の暑い日、六条院の釣殿で涼む光源氏は、若者たちと、近江の君の噂話。夕霧雲居雁の件といい、玉鬘といい、内大臣(=元の頭中将)はなにかと六条院に対抗しようとするのですが、新しく引き取った、この風変わりな姫君にすっかり手を焼いています。玉鬘は自分の将来について悩んでいます。
27 篝火 かがりび 光源氏玉鬘の関係は、ますます微妙に。初秋の夜、篝火の火影の中、添い臥しますが、それ以上は進めない二人。玉鬘に求愛する若者達が奏でる楽の音が聞こえてきます…。
28 野分 のわき いつになく激しい野分が、六条院に吹き荒れます。翌朝、風見舞いに訪れた夕霧は、紫上を垣間見て、その美しさに心が乱れます。夕霧は父・光源氏に伴われて六条院の女性達を見舞いますが、姉と思っていた玉鬘と源氏の関係に疑問を抱き始めます。
29 行幸 みゆき 光源氏玉鬘をいっそ妻にしようかと悩みますが、内大臣(=元の頭中将)との関係もわずらわしく、冷泉帝に尚侍として出仕させることを考えます。大原野行幸で、玉鬘は源氏によく似た冷泉帝の美しさに心ひかれます。源氏は内大臣に「玉鬘はあなたの娘」と告白、大臣は驚きますが玉鬘の裳着の腰結役を引き受けます。
30 藤袴 ふじばかま 玉鬘は、宮仕した場合の中途半端な立場を考えて悩みます。光源氏はさらに強く恋心を訴え、父内大臣(=元の頭中将)は源氏の真意を疑いつつも口を出しません。玉鬘は二人の父の間で孤立してしまうのでした。一方、玉鬘が実姉と知った柏木も、実姉でないと知った夕霧も複雑な心境。納得のゆかぬ夕霧は父源氏に玉鬘との仲を問いかけ、源氏は言い逃れるものの不安を拭えません。髭黒蛍宮ら求婚者たちは、玉鬘の出仕を前に焦りを募らせます。
31 真木柱 まきばしら 玉鬘と結婚したのは、意外にも無骨な髭黒でした。玉鬘は傷つき、光源氏は愕然とします。髭黒の正妻・髭黒の元の北の方は物の怪の病がこうじて髭黒に火取の灰を浴びせます。髭黒と源氏を恨んだ父・式部卿宮と母・式部卿宮の大北の方は、娘と孫娘・真木柱たちを里へ連れ戻します。真木柱は悲しい歌を詠み置き去っていきます。髭黒は強引に玉鬘を自邸に連れ出し、やがて髭黒の息子たちは新しい母になつき、玉鬘も髭黒の子を産みます。
32 梅枝 うめがえ 明石姫君(=後の明石中宮)は東宮(=後の今上帝)への入内を間近に控えています。裳着の支度に忙しい光源氏。お祝いの御香や書の名品が届き、蛍宮と二人で批評し合います。裳着は秋好中宮を腰結に迎え盛大に催されます。夕霧雲居雁の縁談はいっこうに整わず、内大臣(=元の頭中将)はかつて夕霧を拒絶したことを後悔します。夕霧には別の結婚相手も浮上。
33 藤裏葉 ふじのうらは 内大臣(=元の頭中将)は譲歩し、夕霧雲居雁の結婚を認め、初恋の二人は晴れて結ばれます。明石姫君(=後の明石中宮)は入内し、生母・明石の君は後見役となり、わが娘と暮らす夢がかないます。紫上と明石の君は初めて対面し、相手の素晴らしさを認め合うのでした。光源氏は準太上天皇というこの上ない位にのぼり、予言の謎が明らかになります。冷泉帝と朱雀院(=朱雀帝)がともに六条院に行幸、源氏は栄華の絶頂に立ち、出家を思い始めます。
34 若菜上 わかなじょう 朱雀院(=朱雀院)は出家して愛娘・ 女三宮光源氏に託します。新たに正妻を迎えることとなり、源氏は葛藤し、紫上も苦しみます。この年、源氏は四十の賀。六条院では華麗な賀宴が繰り広げられます。傷心の紫上は気丈にふるまい、未熟な女三宮に失望した源氏は紫上の素晴らしさに愛情を新たにします。しかし二人の亀裂は深まるばかりなのでした。明石女御(=後の明石中宮)が男皇子を出産し、明石入道は長年の宿願がかなったことを告げる手紙を残し、山に入ります。明石の君明石の尼君の悲しみはひとしおです。柏木は、蹴鞠の日、猫のいたずらで女三宮の姿をかいま見てしまい、激しく恋焦がれます…。
35 若菜下 わかなげ 柏木の恋慕は、例の猫を手に入れて愛玩するまでにたかぶり、女三宮に近づく機会を狙います。冷泉帝が譲位し、女三宮の兄・東宮(=今上帝)が即位、明石女御(=後の明石中宮)腹の皇子が東宮に。光源氏一族は住吉神社に盛大に願果しの参詣をします。格式の高くなった女三宮に源氏の扱いも重みを増し、紫上は出家を望むようになります。六条院の女楽の夜、紫上は病に倒れ、危篤に陥りますが、かろうじて蘇生します。六条御息所の死霊のせいなのでした。柏木は源氏不在の六条院で、女三宮と強引に契りを交わします…。女三宮は懐妊し、柏木の恋文を発見した源氏は、真相を知ってしまいます。罪におびえる柏木は、源氏にあびせられたひとにらみと恨み言で、病に臥してしまいます。
36 柏木 かしわぎ 女三宮柏木の子(=)を生み、出家。またしても六条御息所の死霊が出現、六条院の悲劇を嘲笑するのでした。病の柏木は生きる望みをなくし、見舞った夕霧に後を託して亡くなります。わが子ならぬ赤子を抱いて、光源氏はかつての自分の罪の重さを思うのでした。父大臣(=元の頭中将)ら親族だけでなく、今上帝をはじめ世間の誰もが、柏木の若すぎる死を惜しみます。
37 横笛 よこぶえ 柏木一周忌の頃、朱雀院(=朱雀帝)から贈られた山の幸に、幼いがたわむれます。尼姿の女三宮を見る光源氏の思いは複雑です。夕霧は、亡き柏木の妻・落葉の宮を訪問し、母・一条御息所から柏木遺愛の笛を受け取ります。その世、夢枕に立った柏木から「笛を渡してほしい人がいる」と告げられた夕霧は、翌日六条院を訪れます。夕霧は薫の出生を疑っていたのでした。笛は源氏が預かることになりました。
38 鈴虫 すずむし 女三宮の持仏開眼供養が盛大に催され、光源氏紫上は細かな配慮をします。女三宮は心静かな住まいを望みますが、源氏は尼となっても宮を手放すことができません。中秋の夜、鈴虫の宴が催され、招きに応じて一同は六条院から冷泉院(=冷泉帝)へ移り、管弦の遊びとなります。翌朝、源氏と秋好中宮は語り合い、亡き六条御息所の鎮魂を思います。
39 夕霧 ゆうぎり 落葉の宮の母・一条御息所を見舞うため小野の山里を訪問した夕霧は、宮に恋心を訴えて拒まれます。不審に思った母君の手紙は、嫉妬した雲居雁に隠されてしまいます。娘の名誉を保てないと悲観した母御息所は絶望して亡くなり、夕霧は孤立した落葉の宮をわがものにしようと計り、宮は心を許しません。しかし結局は夕霧と再婚するしかないのでした。一方、長年信じきっていた夫に裏切られた雲居雁は、怒って子供たちを連れて里へ帰ってしまいます。あわてて機嫌を取ろうとする夕霧。噂を聞いた紫上は、女の人生の悲しさに胸を痛めるのでした。
40 御法 みのり 紫上の病は次第に重くなり、出家を願いますが、光源氏は自分より先に出家することを許しません。紫上主催の法華経千部供養が荘厳に行われ、死期を悟った紫上は、明石の君花散里にそれとなく別れの歌を贈ります。明石中宮や幼い匂宮にも遺言を残し、秋、中宮と源氏に看取られて紫の上は死去、夕霧は死顔の美しさに衝撃を受けます。悲しみのうちに葬送が行われ、源氏は「今すぐ出家すれば、心乱れてかえって望ましくない」と思います。
41 まぼろし 紫上回想のうちに、六条院の四季はめぐります。見るものすべてに亡き紫上を思い出す光源氏は、折々の歌を詠みわが人生を振り返り、秋には紫上一周忌の法事が営まれます。年末、紫上と交わした文を焼き、翌春の出家に備えます。
雲隠 くもがくれ (巻名のみあって本文のない巻、と言われていますが、その巻名も作者が作ったものかどうか不明です。もしそういう巻があるとすれば、光源氏の出家と死を描く巻、ということになるようです。)
42 匂宮(匂兵部卿) におうみや(におうひょうぶきょう) 光源氏亡き後、その子や孫の世代。かつての源氏ほど輝かしい存在はいません。元服したは時代の花形ですが、自分の出生に疑いを抱いていて女性には消極的。匂宮は薫に競争心をもち、世間は「匂兵部卿、薫中将」ともてはやします。夕霧は二人を婿にと望んでいます。
43 紅梅 こうばい 亡き柏木の弟・紅梅大納言の邸には、三人の美しい姫君がいますが、うち一人は蛍宮の遺児で、宮の御方と呼ばれています。蛍宮の北の方だった真木柱と、紅梅は再婚したのでした。実の娘同様に世話をしますが、控えめな姫は継父の興味の視線を避けたく思い、将来にも悲観的です。長女を春宮に入内させた紅梅は、匂宮を次女の婿に、と望んでいますが、匂宮の関心は宮の御方にあるのでした。匂宮は好色で宇治の八宮の姫君(=大君中の君)にも求愛すると聞き、母・真木柱は不安に思っています。
44 竹河 たけかわ 玉鬘は子供達の将来に頭を悩ませています。元大臣家とはいえ、夫髭黒亡き後、息子達は昇進の機会が無く、娘達は入内の後盾が無いのでした。姫君に熱心に求愛する夕霧の息子・蔵人少将は、玉鬘にもてなされ一家と親しいに嫉妬しています。玉鬘は昔の恋のつぐないに長女を冷泉院(=冷泉帝)に参院させ、次女は尚侍として女官出仕させましたが、なかなかうまくゆきません。息子たちにも非難され、母の苦労は絶えないのでした。
45 橋姫 はしひめ 俗聖と呼ばれる八宮を慕って、は宇治の山里に通うようになります。大君中の君姉妹を垣間見た薫は、親しみをおぼえ交際を申し出ます。八宮も誠実な薫の態度に好意を持ち、娘達の後見を依頼するのでした。一方、匂宮も、薫から姫君達の様子を聞き興味を抱きます。薫は八宮邸で亡き柏木ゆかりの老女房・弁(=後の弁の尼)にめぐり会い、自分の出生の事情を知ってしまい、秘密が漏れることを怖れるのでした。
46 椎本 しいがもと 匂宮は宇治に関心を寄せ中の君と文通しますが、八宮も姫君達も本気にはしません。死期を悟った八宮はに後を託し、娘には「安易に結婚するな」と言い残して山寺にこもり、亡くなります。残された大君と中の君は悲嘆に暮れ、薫は親身に世話をします。薫は大君に、中の君を求める匂宮の気持ちを弁護して伝え、大君に寄せる自分の恋心をも打ち明けるのでした。
47 総角 あげまき 大君は「自分が親代わりになって妹を幸せにしなくては」と思い、中の君の結婚を望みます。薫は大君の寝所に近づきますが、大君は逃れ、中の君と気まずい一夜を過ごします。中の君は姉を恨みます。中の君を匂宮と結婚させる策略に成功した薫ですが、大君は薫に心を許さず、薫も結婚を強行することは出来ません。予想通り順調ではない中の君の結婚の行方に、大君は「父八宮の遺言に背いた自分の責任」と絶望。薫との結婚にも幸福を望めない大君は、病に衰弱し、ついに薫に見取られて亡くなります…。薫は冬の宇治で悲しみの喪に服します。
48 早蕨 さわらび 翌春、匂宮中の君を二条院に引き取ることになりました。都での安定した生活を目前に、女房達は浮き立ちますが、中の君は宇治を離れることを悲しく思います。は、大君を亡くした悲しみを中の君の後見で紛らわそうとします。都では匂宮は中の君を妻として大切に迎えます。薫は大君の意志に背いて中の君を匂宮に譲ったことを後悔し始めます…。
49 宿木 やどりぎ 今上帝女二宮と結婚することになります。大変な名誉とはいえ、薫の心は亡き大君から離れません。匂宮夕霧六の君と気の進まぬ結婚をしますが、身ごもったばかりの中の君の嘆きは深く、宇治に帰りたいと願います。しかし無事に男子が誕生、世間は中の君の幸運を噂するのでした。大君の面影を求めて中の君を慕い続ける薫を、匂宮は警戒します。困惑した中の君は、今まで知られていなかった異母妹・浮舟のことを薫に打ち明け、偶然その姿を垣間見た薫は、大君に似た浮舟に関心を抱きます。
50 東屋 あずまや 八宮の末娘・浮舟は、母・中将の君の身分が低いため親族と認められず、母と再婚した常陸介に伴われ東国で育ちました。決まっていた縁談を養父に横取りされ、部屋も奪われて中の君に庇護されていた浮舟は、好色な匂宮の目にとまり、危ぶんだ母君は浮舟を隠れ家に移します。「身分違いの結婚の不幸を娘に繰り替えさせたくない」と願う母君ですが、薫の素晴らしさに目を奪われ、中の君に仲介を託します。薫は隠れ家の浮舟を訪れ、宇治に連れて行くのでした。
51 浮舟 うきふね 匂宮浮舟の行方をつきとめ、女房の右近(浮舟の女房)侍従を欺いて味方につけ、密かに宇治の浮舟のもとに通います。浮舟は情熱的な匂宮に強くひかれ、誠実なを裏切ることに悩みます。一方薫は、初め浮舟の変化を女らしさと見誤りますが、事情を知って驚き、浮舟を都に迎え入れる準備を急ぎ、匂宮に奪われまいと警護を固めます。追いつめられ、絶望した浮舟は、入水を決意、匂宮と母・中将の君に遺書を書き残します…。
52 蜻蛉 かげろう 突然の浮舟失踪に右近(浮舟の女房)侍従は動転し、過失を繕うため遺体の無い葬儀を出します。事情もわからず悲嘆のうちに仏事が営まれ、匂宮は互いの様子をうかがい合います。八宮の末娘・浮舟の存在は葬儀によってはじめて世に知られ、世間は驚くのでした。匂宮は新たな恋を求めるようになり、薫も憂いを胸に抱きつつ、高貴な女一宮に憧れて妻・女二宮に同じ装いをさせてみたり、女房と戯れるなど、華やかで空虚な都の生活に戻ってゆきます…。
53 手習 てならい 横川僧都は宇治院で物の怪に憑かれた美しい女を救い、小野の妹尼に託します。妹尼は亡き娘の生まれ変わりと喜び、大切に保護します。やがて女・浮舟は記憶を取り戻し、匂宮にひかれたことを後悔、身分を隠します。山里の生活も心静かとは言えず、尼君の娘婿・中将の求愛を逃れ、浮舟はついに出家を遂げます。「横川僧都が不思議な女を出家させたそうな…」と明石中宮から伝え聞いたは、浮舟の生存を知って驚きます。薫は浮舟一周忌の法要を準備していたところだったのでした。
54 夢浮橋 ゆめのうきはし 横川僧都浮舟のことを問いただし、小野に小君(浮舟の弟)を遣わし、手紙を届けさせます。浮舟は動揺しますが、小君に会うことも、薫の手紙を読むことも拒みます。話を聞いた薫は、「また誰か他の男が?」と疑うのでした…。